『ギターとウクレレ』    理子



 夏のある日・・・仕事を終えた石川と岩瀬が寮に戻ると、どこかからポロンポロンとかわいらしい弦の音が聞こえてきた。

 「あ・・・ウクレレ?」

 その音を聞きつけた岩瀬が、顔をほころばせて呟いたのに気づいた石川は、見上げて尋ねてみた。

 「岩瀬・・・ウクレレ好きなのか?」

 「ええ。可愛いですよね、ちっちゃいのにちゃんとしっかり音が出て。あれ、多分アレクですよ。ロスにいた頃はまってて、よくうちでも引いてましたから」

 岩瀬は嬉しそうに答えると、『ちょっと寄り道していきましょうよう』・・・と石川の腕をしっかり掴んでねだって見せた。

 大型犬!と岩瀬を見ながら心の中で石川は思いながら、くすっと笑って『いいよ』と返す。

 二人並んで音を頼りに進んでいくと、やはりそこにはアレクがいた。

 「おっ!岩瀬〜っ♪やっぱりきたな」

 人垣の中央でウクレレを抱えたアロハシャツを着たアレクは、二人の姿を見つけた途端大きな声でそう叫ぶと、岩瀬を呼び寄せるように手招きをした。

 「久しぶりだな〜アレクのウクレレ。相変わらずお前が持つと、小さいウクレレがおもちゃに見えるよ」

 笑いながら岩瀬は近づいた。

 「今日通りかかった楽器屋さんで見つけちゃってね。夏だし、懐かしいし、ついつい衝動買いしちゃったよ・・・んで、岩瀬にはこれ♪」

 風貌だけは似非ハワイアンになりきったアレクは、足元の大きな紙袋を岩瀬に渡した。

 中を見ずとも、はみ出している部分でそれが何かはわかってしまう。

 「ギター!」

 フォークギターを袋から取り出した岩瀬は、またまた嬉しそうに弦をひとかき鳴らしてみる。

 ボロロン・・・

 澄んだ綺麗な音に、岩瀬はますますにこやかに笑った。

 「調弦はお店の人がしてくれたから、久しぶりに一曲合わせようや♪」

 アレクはそう声をかけてから、題名も言わずにウクレレを弾き始めた。

 前奏のひとかきで何を弾こうとしていたのかわかった岩瀬は、了解のサインの変わりにすぐに前奏を合わせていき・・・それから二人で歌い始めた。

 「「It happened on the Beach at Bali Bali〜♪ I found her dreaming on the golden sands 〜♪」」

 軽快なリズムで奏でられるハワイアンソング。突然始まった番犬と戦闘犬のセッションに周囲はにわかにどよめいた。

 「The day I sailed across the ocean〜♪ To find romance across the sea〜♪ 」

 「I never had the slightest notion〜♪」

 「「I’d meet the girl who used to live nest door to me 〜!!♪」」

 歌うパートが決まっているのか、息がぴったりで自然に歌詞を歌い分けている姿は、本当に中が良さそうで・・・愉し
そうな二人の姿に、集まった全員がいつの間にか引き込まれるようにリズムに乗って身体を揺らしていた。

 「「And end〜ed up’ way down in Ca〜ro〜line〜〜〜!!♪」」

 ヂャンヂャン〜♪

 ラストまで愉しげに弾ききった二人は、お互いに見合ってから・・・わっと笑いあってハイタッチをおまけにパチンと打ち鳴らす。

 いつの間にか人数を何倍にも増していたギャラリーからも、わっと火がついたように拍手や喝采が沸きあがった。

 「すごいっ!こんな特技があるなら、早く教えてくれればよかったのに!!」

 「そうですよ〜っ!そしたら宴会のトリはいつでもお任せしたのにっ!!!」

 どこからともなく掛けられた声に、さらにギャラリーがわっと盛り上がった。

 「今の・・・なんていう曲?」

 石川が岩瀬に声をかけると、岩瀬はにっこりと笑って答えた。

 「On the Beach at Bali Bali. です。『バリバリの浜辺』って日本語の歌詞でも有名なハワイアンですよ♪テンポが気に入ってて・・・俺とアレクの18番ってやつです」

 そして岩瀬はその後の言葉は他のギャラリーに聞こえないように、石川の耳のすぐ横に顔を寄せて囁いた。

 『・・・後で部屋で俺の十八番のハワイアン・ラブソングを歌ってあげますからね♪』

 「んなっ/////・・・何言ってるんだよ・・・こんなとこでっ」

 最初の一声を大声で言ってしまった石川だったが、すぐに小声で岩瀬をたしなめる。

 叱られても愉しそうに岩瀬は笑うと、もう一曲!とギャラリーから上がったアンコールに、アレクともども答えるべく、次の曲を弾き始めたのだった。


 これ以降、事ある毎にこの大型デュオは担ぎ出されることになるのだった。

END